この酒の代わりに焼酎を
カクテルのレシピは六つか七つの蒸留酒のために書かれていて、そのどれも焼酎ではない。置き換えたときに何が起きるのか、なぜうまくいくのか、そしてうまくいかない場面はどこか。
まず割り算の話から
レシピが指定する蒸留酒はたいてい40度で、焼酎の多くは25度。同じ分量を注げば、加水量はそのままに強さだけが三分の一ほど落ちる。それは置き換えではなく、同じ名前をつけた薄い酒でしかない。ここではその対処を必ず書いているし、強さが要る道筋には、実際に度数のある銘柄しか並べていない。
何の代わりに?
- ホワイトラム近い35 本が候補になる黒糖焼酎がいちばん近い。たとえ話ではなく、ラムと同じサトウキビから造られているという意味で近い。
- 熟成ラム・ジャマイカンラム使える70 本が候補になるハイエステルのジャマイカンラムのあの癖を再現できるものは、ここには無い。似ていると言う人は、おそらく飲み比べていない。使えるのは熟成した黒糖焼酎とクース。レシピが「香りが強く、単式蒸留で、時間の入った酒」を求めている場面でなら働く。
- ウオッカ近い213 本が候補になるこれはいちばん簡単で、しかも置き換えたほうが酒がよくなる場合がある。きれいな米焼酎や減圧蒸留の麦焼酎は、ウオッカの仕事をしたうえで、何かを持ち込んでくる。
- ブランコ・テキーラ別の酒になる60 本が候補になるここにアガベは無いし、アガベの代わりになるものも無い。常圧蒸留の芋焼酎がブランコと共有しているのは音域のほう。青くて土っぽく、わずかに硫黄を感じる、おとなしく座っていないベースという点。
- ウイスキー使える121 本が候補になる樽で寝かせた麦焼酎は、麦を蒸留して木に入れたもので、日本ではもう何十年もハイボールとして飲まれている。その一杯に関しては置き換えですらなく、すでに普通に注文されているもうひとつの選択肢。
- カシャッサ使える28 本が候補になるこちらもサトウキビ同士。ただし本質的な違いがひとつある。カシャッサは搾りたての汁から、黒糖焼酎は煮詰めて固めた黒糖から蒸留される。
- ジン無い正直に言って、無いこれに正直に答えるなら、無い、になる。ジンはジュニパーで香りをつけた酒で、このカタログにジュニパーで香りをつけたものは一本も無い。どの焼酎を使ってもマティーニはマティーニの味にならない。
ここにあるのは事実ではなく判断で、判断として出している。根拠はすべて併記してあるので、納得できなければ退けてほしい。その下で引用しているのは事実の部分で、その多くは国税庁の資料にもとづく。この問いに関しては、酒の書き手より税法のほうがはっきり答えている。